秘密兵器BCL-0980登場!?
今年の桜の季節は特別だ。
依は通勤中の道すがら、ほころび始め、そして少しずつ花を増やしてゆく桜の木を毎日見つめながらそんな風に思っていた。
何でそう思うかって?
それはもちろん、ミラーレスカメラを手にしたからだ。
今までもこの季節になるとウキウキと心が浮き立ってきたし、桜の花をスマホで撮影した事もあったけど、やっぱりちゃんとしたカメラで桜の花を撮影するのはそれとは全然違うよ!嬉しくて本当にわくわくする。
そして今日は、いよいよ桜の撮影だ!
愛用のリュックに機材一式とおにぎりと唐揚げの簡単なお弁当を詰め込むと、依は愛車ヤマハ・ジョグにまたがり、爽やかな風が吹く午前中の街を颯爽と走り始めた。
走りながら眺める沿道の桜はどれも満開で、晴れ渡る春の空に映えていた。
「気分高まる~っ!」依は心の中で歓声を上げた。
15分ほどジョグで走って到着した先は、千葉県船橋市にある長津川親水公園だ。
依は数年前の桜の時期にこの近くを通った事があり、そのときにいつか桜の時期にちゃんと来てみたいと思っていたのだ。
ジョグを止めてヘルメットを外すと、乱れた短い髪をかき上げて手ぐしで整え、シートの上にリュックを下ろし、はやる気持ちを抑えてカメラを準備した。レンズは先日来お気に入りのLUMIX G 25mm / F1.7 ASPH.とM.ZUIKO DIGITAL ED 12-50mm F3.5-6.3 EZだ。
公園の入り口付近から園内を眺めると、思った通り満開の桜が咲き誇ってたし、土手には紫の花が一面に咲き乱れ、まさに春爛漫って感じ!
依は、12-50mm F3.5-6.3 EZを付けたE-M10を握りしめ、興奮のままに次々にシャッターを切った。
しばらくして興奮状態が収まると、撮影画像を眺めて首をひねる。
「風景を写したのはいいんだけど、桜の花をアップで撮ったのが何だか暗いなあ。白っぽいものだからちゃんとプラスに露出補正してるんだけど、まだ足りない?」
依は思いきって+2.0まで上げて写してみた。すると、とても華やかなで明るい桜の花がプレビューした液晶画面に映る。
「よしっ!」依は心のメモに【桜の花は思い切ったプラス補正が○】と書き記した。
「それにしてもみんな幸せそうだなあ」
思い思いの場所で桜を楽しむ人々を見ていると、依も幸せを分けてもらえる気がした。みんなそれぞれ色々な問題を抱えているんだろうけど、今日のこの日だけはきっと何もかも忘れて幸せに浸ってられるよね。それだけの力が、この満開の桜にはあるもん。依はそんな風に思った。
「でも、みんなのおいしそうなお弁当を見てたら、わたしもお腹空いちゃったな」
依はコンクリートで護岸された土手に座ると、背負っていたリュックを下ろし、首や肩を軽く動かしてコリをほぐした。
やっぱり、まだ慣れてないから肩がこるなあ。もっとちゃんとしたカメラバッグを使ったら、少しは楽になるのかな?今度、藤木さんに相談してみようっと。
そんな事より、おべんとだっ!
依は猛烈な食欲を感じ、リュックから取り出したおにぎりにかぶりついた。一つ平らげると人心地つき、今度はゆっくりと桜を楽しみながら、プチお花見弁当を楽しんだ。
「ふう、美味しかったあ」
指先に付いたご飯粒までしゃぶった依は、持参した紙製の濡れナプキンで手をよく拭うとカメラを首から下げて立ち上り、さっそく撮影を再開した。
ズームの12-50EZと単焦点のLUMIX G 25mm / F1.7を交互に付け替えながらしばらく無心で撮影していた依は、そろそろOLYMPUSの誇るアートフィルターを使ってみようと思い立った。
このカメラを手に入れてからいろいろ調べて、OLYMPUSのカメラはアートフィルターが特徴である事を知り、ずっと使ってみたかったんだけど、まずは普通の撮影を覚えようと今日まで封印してきたんだ。
でも、もう良いよね。
依は菜の花と桜の競演をファンタジックフォーカスで狙ってみた。
とっても幻想的でいい感じ。
その後もポップアートとかいろいろ使ってみたけど、上手くはまらない。
場所を変えて、ラフモノクロームを使ってみたら、とてもかっこ良く撮れたので更にテンションが上がる。
やっぱり写真撮影って楽しいな。もっと上手にイメージ通りに撮影出来るようになったら、もっと楽しいよね!そのためにはどんどん撮影しなきゃ!
そんな風に思いながら、次の被写体を探していた依は、突然声を掛けられて振り返った。
「すみません。写真お願い出来ますか?」
視線の先に、小さな男の子と手をつなぎ、スマホをもって近づいてくる若いお母さんが映った。
「わたしですか?」
「はい。お願い出来ますか?」
撮影を頼まれるなんて初めてだから、ちょっとびっくりしたけど、やっぱりちゃんとしたカメラで撮影していると上手だと思われるのかな?
「わたしで良ければ」
「ありがとうございます!」
若いお母さんはにっこりすると、スマホを渡してきた。
依がスマホを受け取ると、お母さんは子供の手を引いて、桜の木の下で待っていた、男の子より少し大きなお姉ちゃんとお兄ちゃんの元に戻った。
この桜の木と一緒に撮りたいのね。よし!いっちょ良い写真を撮ってあげよう!
依はカメラアプリの立ち上がったスマホを縦位置で構えると、慎重に構図を整えた。
男の子の手を引いたお母さんの左右にお姉ちゃんとお兄ちゃんが立っているんだけど、それだと引いた構図にしないと家族全員が入らない。
「すみません。お母さんとお姉ちゃんが後ろ側に立って、お兄ちゃんと弟さんが前に出てくれませんか。そうそう、お兄ちゃんが少し中腰で」
依は夢中で指示を出すと、自分もしゃがんで桜の花が大きく入るように構図を整えた。
よし!いい感じ。
「では、撮ります。はいチーズ」
スマホをタップすると家族4人と共に桜の花が大きく入った、いい感じの写真が撮れた。
「どうですか?」少し不安を感じながら、お母さんに写真を見せる。
「わあ、素敵です!」
「ほんとですか?」
「ほんとですよ。凄く一所懸命撮ってくれて、ありがとうございました。お姉さんにお願いして良かったです」
お母さんは、本当に嬉しそうにお礼を言ってくれたので、依も嬉しくなった。
家族と別れて撮影を再開した依は、満を持して【秘密兵器】をリュックから取り出した。
数日前、会社で藤木さんに桜を撮影に行くと言ったら、面白いものを貸してあげると言われたの。
一緒に行ってくれるかも?と淡い期待を抱いてたけど、それは叶わず。でも、面白いレンズを貸してもらえた。
正式名称は【OLYMPUS フィッシュアイボディーキャップレンズ BCL-0980】と言って、とても小さくて薄いレンズだ。何だかオモチャみたいなので、藤木さんに渡されたとき「本当にこれで写せるんですか?」と思わず聞いてしまったよ(^_^;
それに、フィッシュアイと言う名も初めて聞いたので、どんなレンズか詳しく聞いたら、日本語では魚眼レンズと言って、画像の周辺は大きくゆがむけど、とにかく広い範囲を写せるレンズだと説明してくれた。
玄関ドアの覗き穴に付いているレンズやインターフォンのレンズも魚眼レンズなんだって。そう言われて、なんとなくイメージ出来た。
「このレンズは、カメラのボディと通信する端子が無いから、手ぶれ補正もレンズの焦点距離を手動で入れないとちゃんと働かないから注意してね」
藤木さんに、そんな風に注意されたから、前日のうちに9㎜に設定しておいた。
「さあ、どんな感じかなあ」依はつぶやきながらファインダーを覗き、軽く歓声を上げた。
「わあ、広い!」
部屋で見たときも広い範囲が写ってビックリしたけど、屋外ではもっとビックリ!なんたって、視界に入らない様な所までばっちり写ってるんですから。
LUMIX G 25mm / F1.7で桜の花をアップで撮ったら、周りの状況なんてぜんぜん写らないけど、このBCL-0980だとばっちり写る。広々とした風景も撮れるし、ゆがみを生かしたフレーミングを探すのも何だか楽しい!
依は、試してみたモノクロモードとの相性がバッチリだと感じて、モノクロのままどんどんスナップしていった。
このレンズ、本当に楽しいなあ。一万円以下で買えるみたいだし、わたしも買っちゃおうかな。
依は、レンズ沼への一歩を確実な足取りで踏み出した・・・(笑)
つづく。
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