夜景撮影には明るい単焦点と露出補正がマストです(依は語る^_^;)
閉会時間ギリギリまでCP+を楽しんだ二人が会場の外に出ると、そこには美しく暮れゆく横浜の街が広がっていた。
「わあ、きれーい!」
依は目の前に広がる美しい夜景を写真に収めようと数枚写し画像を確認したが、何だか思ったより明るく白っちゃけて写っていたので首をひねった。
「依ちゃんどうしたの?」
「何だか夜景が明るく写りすぎちゃうんです。もっと、暗くしたいんですけど」
「あれ?依ちゃんは露出補正覚えてなかったっけ?」
「いえ。恥ずかしながら」依は上目遣いに藤木を見上げ、頭をかいた。
うわっ!その表情反則だよ。藤木は慌てて依から目線をそらした。
「えっと、簡単に言うとカメラは明るいものは暗く、暗いものは明るく、白いものはグレーに、黒いものもグレーに写そうとするんだ。だから、そのまま夜景を写そうとすると、思ったよりも明るく写ってしまうんだ」
「えっと・・・明るいものは暗く、暗いものは・・・何したっけ?」
「ごめんごめん。いきなりそんな事言っても分からないよね。理屈は追々覚えればいいから、まずはやってみよう」
「はい。それでどうすればいいんですか?」
「まず、ファインダーを覗いてピントを合わせたら、人差し指でシャッターボタンの周りにあるダイヤルを回してみて」
依は言われたとおりにダイヤルを手前側や奥側に回してみた。すると、ファインダー内の表示が明るくなったり暗くなったりする。
「なんか明るくなったり、暗くなったりします」
「それが露出補正なんだ。一眼レフの場合は露出補正してもファインダー内の表示は変わらないけど、ミラーレスはファインダーで確認できるから、より露出補正が使いやすいんだ」
「それじゃあ、いい感じの明るさで撮影してごらん」
依は前ダイヤルをグリグリ回して、いい感じの明るさに設定すると、丁度通りかかったはとバスにピントを合わせて撮影した。
「うん、いい感じだね」
藤木は撮影画像を確認して頷くと、背面液晶の下側を指さした。
「じゃあ、依ちゃんここを見てごらん。このF値の隣に-0.7と書いてあるでしょ。これが今撮影した時の露出補正の値なんだ。その隣のバーも露出補正値に合わせて動くんだけど、今は-0.7だから真ん中よりも左側に黄色いドットが表示されてる。じゃあ、動かしてみるね」
藤木は依からカメラを受け取ると、ダイヤルを動かして+0.7に設定した。
「こうして+側に動かすと、さっきとは逆にカメラの設定値よりも明るく写せるんだ。最初はどんなときに露出補正するか分からないと思うけど、写してみて思ったよりも明るかったり暗かったりしたら、露出補正してみるといいよ。デジカメは何枚写してもタダかからね」
「分かりました。それにしても、わたしはラッキーです」
「えっ?どうして?」
「だって、こんなにカメラに詳しい藤木さんに指導してもらえるんですから。独学してたら、こんなに色々なテクニック覚えられませんよ」
「詳しいなんてとんでもないよ。それに、こちらこそ依ちゃんにカメラを教えられて嬉しいよ」
「そうですか。じゃあ、これからも遠慮無く教えてもらいますから、覚悟してて下さいね」
「お手柔らかにね」
二人はどちらからともなく笑顔になると、肩を並べて歩き始めた。
二人は桜木町駅に向かいながらも、きれいな景色があると足を止め、撮影しながら進む。
もちろんみなとみらいの大観覧車は、さっき教えてもらった露出補正を使いながら何枚も撮影した。
露出補正を使うと、構図やピント位置だけじゃなく写真の明るさも自分でコントロールできるから、表現の幅が広がって楽しいな。依はそんな思いを抱きながら夢中になってシャッターを切った。
「そうだ。イルミネーション撮影に打って付けの面白い技があるから教えてあげるね」
藤木は観覧車を夢中で撮影している依に声を掛けた。
「面白い技ですか?ぜひ教えて下さい!」
「ちょっとカメラ借りるね」
そう言って、依からカメラを受け取ると藤木さんは何やら設定を変更した。
「見ててね」
藤木がカメラを操作すると、ライブビューにしたカメラの液晶画面でカラフルな丸い光が大きさを変える。
「何なんですこれ?凄くきれいです!」
「これはね、簡単に言えばわざとピンボケで撮影してるんだ」
「わざとピンボケですか?」依の頭の中に?が並ぶ。
「さっきも言ったけど、理屈はおいといてまずはやってみよう」
藤木は依にカメラを手渡した。
「わざとピンボケにするって事は、ピントが合ったらだめでしょ。だから、AFでピントが合わないようにマニュアルフォーカスに変更するんだ」
「マニュアルフォーカスって何ですか?」
「レンズには必ずピントリングが付いていて、それを動かす事によってピント合わせが出来る。そのピントリングだけでピントを合わせる事をマニュアルフォーカスと言うんだけど、その状態にすればAFでピントが合わないからわざとピンボケにする事も可能になるんだ」
「依ちゃん、観覧車にカメラを向けてレンズの真ん中辺りを回してごらん」
言われたとおりにすると、丸いボケの大きさが変わる。
「それで、自分のきれいだと感じる球ボケを作って撮影すればいいんだ」
また新しい技を身につけちゃった。藤木さんありがとう!依は心の中で感謝しながらシャッターを切り続けた。
依はニューヨーク生まれのバーガーショップSHAKE SHACKの前に差し掛かると、ガラス張り店舗をかっこ良く感じ、足を止めてシャッターを切った。しかし、やや斜めから撮影された画像は何だかよろしくない感じ。
「藤木さん、このお店をかっこ良く写したいので、待っててもらえますか?」
「いいよ。ゆっくり撮影してね」
「はい。すみません」
依はまず店の正面に立ち、シャッターを切ってみた。やはりその方が安定する感じ。でも、何だかいまいちだなあ。画像を見ながらひとしきり思案すると、モノクロモードに変更して撮影してみた。すると、光と影のコントラストが際立ち、とてもいい感じだ。
依はその構図のままカメラを構え、通行人を画面に入れながら何枚も撮影した。うんうん、いい感じ!それにしても、素敵なお店だな。依は窓際の席に藤木と一緒に座っている自分を想像してみた。いつか、そんな日が来るかな?来たら嬉しいな。いつしか依の指はシャッターを切るのをやめていた。
「依ちゃん、この下にHard Rock Cafeの電飾看板があるんだけどそれも撮影しない?」
「はい。したいです」
二人は階段を降りると赤い大きなギター型看板の前に立った。
「うわあ!実物を見るの初めてだけど、凄く大きいんですね」
依は言いながら、早速カメラを構えた。まずは、全体像を写そうと縦位置にしてファインダーを覗いてみる。ピクチャーモードはモノクロのままだ。少し明るい感じがしたので、露出補正で-0.7に設定して撮影。うん、いい感じだ。
ピクチャーモードをNaturalに戻して、カラーで何枚か撮影。横位置でギターのボディの部分をグッとアップにした写真が気に入った。
ひとしきり撮影して満足した依は、ファインダーから目を離して藤木さんを探した。すると、下の方に向けてカメラを構えている藤木さんを発見。近寄って下を覗くとブルーのきれいな電飾が斜面に沿って垂れ下がり、その奥に赤いハートの電飾が!
「素敵ですね」
依はハートが点灯するタイミングでシャッターを切った。
この小さなハートがもっと大きく育てばいいな。
依はシルエットになった藤木の横顔を見ながら、そんな風に思った。
つづく。
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